助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 そしてようやく収まりをみせた胸に手を当て、彼女はラルドリスににじるように近付いていった。

「なんなんだよ、その微妙な距離は」
「お、女には、殿方には分からぬ事情があるのです……」
「そうなのか? でも話しにくいぞ。まあいいが」

 腑に落ちない顔のラルドリスが前へと進む中、警戒するような目をして斜め後ろに付いたメルは混乱していた。

 ここに至り、彼を守る理由が責務から自らの意思に変わって……それに影響されるように、ラルドリス自身がメルにとって大切な人間となり始めた。
 しかしそうした想いが、ある種の感情と非常に切り分けがたいものなのだと、森の中で引きこもっていた彼女にはまだ知る由もない。
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