助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 その瞳には強固な意志が感じられる。この覚悟は、生半なことでは折れまい。
 今なら魔法で拘束し、ベッドに縛り付けて強制的に休ませることもできなくはないけれど……。

(どうしよう……)

 彼の今抱える問題が、今後の人生を左右するようなものだったなら……。
 昨日今日会ったばかりのメルが意見を差し挟むのは気が咎めるし、責任も取れない。

(うぅ~ん……)

 自分の身すらも厭わず、青年は大切ななにかのために行動しようとしている。ここに留まるつもりがないのはその瞳からも一目瞭然。
 ならば、自分はどうすべきか……。

(わからない……。でも、おばあちゃんなら)

 過るのは、助けられたあの日のこと。
 ここで立ち会ったのが祖母――あの優しかった魔女であれば、目の前の彼にできる限りのことをしてやったはずだ。自分だって命を救われただけでなく、ひとりで生きていけるまで育ててもらったのだから。
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