助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 宮女たちの目が涙で潤み、祈るように両手を握る。こうなるとザハールかティーラなどがすでに手を回し、仕事か家族か、なんらかを楯に取られ脅迫されている可能性が高い。こうして接触を図っているだけでも彼女たちにとっては危ういのだ。
 ラルドリスは眉間にぐっと皺を刻むと、大きく髪を乱した。

「悪かった。周りの者には、私室に急ぎ運んで欲しいものがあったとでも誤魔化しておけ。もう行っていい」
「「申し訳ありませんでした……」」

 ふたりは頭を深く下げながら部屋を出て行く。
 その背中が消えた後に、ラルドリスはぐったりと天井を仰いだ。

「参ったな。彼女たちが後ろ暗いものを見たのはわかったが、無理やり口を割らせるわけにもいくまいし……。母上が父上の毒殺を謀ったのは夜間とされている。他に事の次第を知る目撃者も考えにくいか。くそっ、あの方が病床にいる父上を害したところで、得をすることなど何一つないというのに」

 ジェナに聞いた話によると、あの夜彼女はどうも眠気がひどく、夕食後早めに床についたらしい。それが目覚めると、城内の騎士団隊舎にある取調室内で、詰問を受けていたのだという。
 彼女自身からの証言は得られなかったが、ティーラや例の宮女たち、そして夜間警備に付いていた兵から同様の証言があり、ジェナの犯行は断定された。
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