助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 だが、彼女を直接牢に連れて行った兵士からは、その時彼女はどうも意識があいまいで、受け答えもはっきりとしなかったという説明も聞いている。
 メルもあの正妃が自らそんな無意味な行動を起こすとは思えない。ならば、可能性として一番大きいのは……。

「もしや……ジェナ様の身体は、何者かに操られていたのでは?」
「……魔術師か! しかし、可能なのか? そんなことが」
「特殊な薬と併用すれば、多分……」

 怪しいと思うのは、ジェナがその日強い眠気に襲われたことだ。
 本来、自我を強く持つ人の行動を魔法で操るのは難しい。だが、深い睡眠時や気絶時など、心理的な警戒が零に近い場合に限り、他の者の意識を乗り移らせたりすることも可能になる場合があると、祖母が持つ秘伝書のひとつで読んだ記憶があった。

 想像が確かであれば、やはり姉は恐ろしい。警戒が厳しいはずの正妃の気を緩ませて薬を飲ませるには、数年もの長い時間をかけて信用を得る必要があったはず。そうした長い忍耐を覚悟の上で宮中に潜り込み、ここまで大胆な行動をしてのけたのだから。

「そうか、手間の掛けたことを……。しかし、それがわかったところでどうすれば……」
「私に少し考えがあります。一日ほど時間をいただけますか?」
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