助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 魔術師はじっとその瞳を覗き込むと、ぼそぼそとした声で告げる。

「術は成った。命じるがいい」
「ふむ……ならば、これを持って陛下の私室へと向かい、吞ませる真似をなさい」

 暗い声の魔術師の言葉通り、ティーラは取り出した小瓶をジェナの姿を借りた魔物に握らせ、命令した。
 魔物はこくりと頷くと、ふらふらとした足取りで歩いていく。

 ティーラは宮女たちを連れて扉を開けると、外の状況を確認した。正妃の部屋からは陛下の部屋は、数室しか離れていない様で、警備兵もフロアに至る前の階段に数人が待機しているだけ。

「魔術師、もういいわ消えて。タチアナ、お前は少し経った後、階下から警備兵を呼んできなさい。パルマは私と一緒にジェナ様を取り押さえる真似を。くれぐれも妙なことを口走らないように」
「「は、はい……」」

 震えながら、ふたりの宮女が頷く中、ティーラは涼し気な顔で魔物の後を追っていった。
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