助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 それで用が済んだのか、ティーラは深く礼をして立ち去ろうとする。

(……大丈夫だった)

 内心、姉がこちらに興味を持たなかったことにメルがほっとしていた時だった。
 カッ、と甲高い音をヒールで立て、ティーラが振り返った。
 その明るいグリーンの瞳がこちらを捉えている。

「そちらの娘は、シーベル様がお連れになった者でしたかしら?」
「ええ……最近当家に仕え始めた臣下の娘で、メルと言います。よく気が付くもので殿下のお側に付けているのですよ。なにか粗相でも……」
「少し、気になりまして」

 シーベルの言葉の途中でティーラがツカツカと歩み寄り、俯くメルの心臓が跳ねる。
 すっと氷のような白い手が伸びてこようとし、メルは目を瞑った。

「待て」
< 264 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop