助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「…………」

 あまりに重すぎる話に、メルは背中に岩を積まれたような気分になる。
 つまりこのことを証明できれば、臣下の支持を失いザハールは失脚する。確実に……。
 ジェナは膝に顔を付け、さめざめと泣いた。

「ごめんなさい……ずっと、言えなかったの。私もひとりの息子の親だから……! 亡くなろうとするマリア様に、あの子のことをお願いしますと言われた時から、どうすればいいのかがずっとわからなくて……! ごめんなさい……!」

 我が子と共に成長するザハールの姿を見ながら、ジェナが……そしてターロフ王が何を思っていたのかは、メルにはわからない。
 しかし、メルにはそれを責める権利はない。誰しもがそんなに強くはなれないと知っているから。その時にその場所にいたって、きっと同じように心に封じることしかできなかったろう。

「私はザハール殿になにも言えず……彼の母替わりとしてちゃんと愛情を注いでやることもできなかった。それが……我が子に見せた顔との差が、彼を歪めてしまったのかもしれません」

 メルは無言で手を伸ばし、ジェナの震える指先に触れた。
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