助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 重大な事実を胸に抱えたまま誰にも相談できず苦しんでいたこの人に、掛けられる言葉があるとしたら、たったひとつだけだ。

「大丈夫です。ラルドリス様を信じてください。あの方はちゃんとあなたの優しい気持ちを受け継いでいるから、きっとすべての因縁に、けりをつけてくれます……もうこれ以上、苦しい思いをあなただけで抱えこまなくていいんですよ」
「ええ、ありがとう……」

 ジェナは、じっとまぶたを閉じたまま溢れ出る涙をそのままにした。長年の胸の奥に折り重なった彼女の苦しみの雫が、その手を包むメルの指先を温かく伝って消えてゆく。

(どうか……彼女が自分のことを早く、赦してあげられますように)

 そうしていつか、彼が息子の幸せを心おきなく祝福してあげられるよう、メルは祈った。
< 273 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop