助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 王城の宰相執務室に一人篭り、アルクリフ王国の宰相を兼務するバダロ・ベルナール公爵は額に汗し、両腕を机の上に突っ張っていた。

「む、む、む……」

 彼が凝視する机の上には、主だった臣下それぞれの影響度をまとめた勢力図がある。それにはここ最近で大幅に変更が加えられ、中でもいくつかの赤字での注釈の文は、その危機感の表れでもあった。

(ボルドフめの意思表明に続き、トゥーレ公爵や、ウォド辺境伯……法務方のエーゲルン副長官までもがラルドリス派に着いたか。厄介だ……彼はベシェモ公国の王族と繋がりがある。あちらの潤沢な資金を当てにされては……)

 正直、もうすでに勝負は決まっているものだと思っていた。
 つい一か月前までは、王国の陣営は八割がたこちらへの恭順を表明し、ザハールへの忠誠を誓っていた。
 それが、今になって……ラルドリスがこの城に戻って以後、急速に勢力図は急速に塗り替わり、拮抗するとは言わないまでも、六対四の割合程までに、陣営の差を縮められている。勢力図を引き裂かんばかりに手に力が篭る。

「……シーベルめっ、あの青二才が!」
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