助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 鮮やかな紅色の絨毯の上を通って、次々と各地から足を延ばした貴族たちが、びっしりと立ち並ぶ。
 その目には一様に、これから行われる儀式を見定めようという覚悟が灯っている。
 その中の一人としてシーベルは、ラルドリスが壇上に上がるのをじっと待っていた。

 今日ばかりは、彼が傍にいて支えてやるわけにもいかない。彼自身が、誰の傀儡でもなく、自身の意思でこれからの国を背負うことを、表明しなければならないのだから。

(……ふう、目が霞む)

 シーベル目には濃い隈がある。
 寝食を惜しんでできる限りの手は尽くした。限られた日数の中東奔西走し、実力と誠心を兼ね備えた有力者に出来る限りのことを伝え、協力を求めた。中には、これからの二人の演説や周りの反応を見定めて、どちらにつくか決めようという者もいるだろう。冷静に計算した上では、現時点はよく見積もって五分。

(さすがにベルナール公爵の抵抗は激しかった。でも……不思議と不安はないな)

 今朝、ラルドリスの顔を見て湧き上がったのは、やはり……彼ならば、この国をまとめてくれる。敵も味方もひとつの器に取り込んで、まっすぐ未来に向かっての道筋を敷いてくれる、そんな期待だ。
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