助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
(不思議ですよ。あれだけ苦労したのに、それをまた楽しみにしている自分がいる)

 シーベルは幸せに思った。自分ではなく、自分を認めてくれる誰かのために働けるそのことを。彼ならば、きっとこの国のすべての民の胸に光り輝く勲章となってくれるはずだ。だから……。

(頼みますよ、メル殿)

 第一騎士団指揮下の警備の元、不測の事態が起きるとすれば人の手ではなく、それは超常の力を借りた何者かの襲撃となるだろう。
 だが、機転を利かせ度重なる危機を救ってくれた彼女ならば、きっと何があっても対応してくれるはずだ。

(では、私はせめて、我が君の晴れ舞台を精一杯この目に焼き付けておくとしますか)

 シーベルはいつもの朗らかな表情に顔を戻す。『本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。それでは、ここにアルクリフ王国三百周年祝賀式典を開催させていただきます!』

 司会進行役の事務官から開催の言葉が叫ばれ、そうしてついに、建国記念式典が始まる。
 自慢の甥の登場はもう少し後で、シーベルはそれを楽しみに待つ。
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