助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 大ホールのに造られた舞台袖の控室にて。
 ザハールもラルドリスも、声の一つも掛け合わず、互いを視界に入れようとすらしない。

 式典は厳かに行われ、開催の言葉から全体での国歌斉唱、今期功労者の叙勲、そして現在国王に代わり国政の取りまとめを担う、ベルナール公爵の挨拶と、告知されていた件――両王子の国家運営に向けての演説に関しての説明が執り行われたところだ。

「では、御準備はよろしいですわね?」

 清廉さと色気を同居させる薄紫のバックレスドレスに身を包んだティーラは、自身の書いた原稿を頭に入れ、自信満々の顔をしたザハールににこりと笑顔を向ける。彼は己の力強さをアピールするため、黒い軍装に近い礼服に身を包んでいた。その姿はラルドリスとは対照的だ。

「ああ。まあ、このように徹底せずとも、我が姿を見れば次代の王位を継ぐのにどちらが相応しいかなど、一目瞭然だがな。ふふ……臣民の万雷の拍手を受けた後、震えた小鹿の様に壇上に立ち竦むあやつの顔が楽しみだ」
「ええ、そうなること、確信しております」

 そう言いながらも、ティーラの心の奥では警鐘がなりやまない。
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