助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 まるで本当に喜びを爆発させるように、ティーラは笑う。そして言った。

「ねぇ、あなたもあんな顔だけの王子様は捨てて、こちらにいらっしゃいよ。私がお父様たちに取りなして、もう一度家に戻してあげる。あの時のことは謝るわ……ごめんなさい。どうしても私がこの地位を掴むために、必要なことだったの。どうせあなただったら、ザハール様に見初められたって彼を玉座に着けることなど、叶わなかったでしょう?」

 ――カツ、カツ、カツ……。

 ティーラの足がよく光を弾くワックス塗りの木床を叩き、一言ごとに近付いてくる。舞台袖の暗がりでいよいよ彼女の顔がはっきり見えるようになり、メルはぐっと奥歯を噛む。ティーラの手が伸び、メルを求めた。

「でも私なら……彼を操り、これからのこの国を意のままに導けるの! メルローゼ、今の魔法の力を身に着けたという優秀なあなたがこちらに着けば、この先の栄華はもはや約束されたようなもの! 誰もが私たちに頭を垂れ、敬うの。どうせこんな短くてつまらない人生……好きなように生きましょうよ!」

 目を大きく見開き、ティーラはメルを誘惑する。その言葉には確かな熱量と、抗いがたい引力があった。
 そう、人生は短くて……とても難しい。
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