助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「今の俺も、そうした、この国を支え続けてきた人たちと同じ気持ちなんだと思う。俺は未熟で、なんにも知らない。際立った知性も、図抜けた力も、人の心を掴む魅力も、なにもない。でもひとつだけ、自信を持っているものがある。それは、この国を”愛する気持ち“だ! どんなことがあろうと、俺は死ぬまで、この国を支え続ける。例え王になれなくたって、なんらかの方法でこの国の人々を盛り立てたい。アルクリフ王国が、他の国に賞賛されるところを、皆にこの国が褒められるところを見たいんだ」

 ラルドリスは、慈しむような視線をして跪くと、自分の両の足の下に根づく大地に触れた。この場所こそが今も、自分をしっかり支えてくれていることの感謝を、示すように。

「長い歴史を持つこの国だ……きっとこの場に参じた方々の中にも、父上と共に国の未来について語り合った人はたくさんいるだろうと思う。あの人は俺たちのことなどそっちのけで、決していい父親とはいえなかった。……けれど、その顔はいつも真っ直ぐ前を向き、どこかを目指していたよな。周りの人たちも、楽しみな顔をして同じ方を向き話していたのを覚えてる。あなたたちは父と、どんな夢を見ていた? それを俺に教え、その志をぜひ引き継がせてくれないか」

 そして最後に、ラルドリスは軽い音を立ててひな壇、そして舞台から飛び降ると……参列者と同じ視点で深く、深く礼をした。
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