助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「――さて、宣言通り、俺を安全に送り届けてもらうぞ」
「わかりました。では少し離れていてください」

 祈りが済み次第、早速催促する青年に口元をややほころばせると……メルは彼を遠ざけ、先程の黒いナスを出して地面に置いた。予想外の行動に、青年の口が丸く開く。

「そんなものをいったいどうする?」
「まあ見ていてください、魔女の本領発揮というところです。『……悍馬(かんば)の霊よ、この黒き器に宿りて、しばし大地を駆けまわりたまえ』」

 まじないと共にメルの指から細かい光が降り注ぎ、ナスがブルブルッと振動した。そして――。

 ――ぼふんっ!

「うおぉっ……!?」

 大袈裟な煙が立ち上り……それが風に取り払われた後立っていたのは、立派な体躯の見事な鞍付き黒馬であった。誕生を喜ぶように、馬は大きく鳴き声を上げる。
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