助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「皆……拙い言葉だったが、話を聞いてくれてありがとう。限りある人生だが……これからも共に俺たちの住むこの国を、よりよいものにしていこう。どうか、よろしく頼む」

 そして顔を上げ、大きく歯を見せて笑った。
 明け透けな笑いは、一国の主とするにはいささか威厳に欠けるものだったかも知れない。
 けれど――。

 ――パチ……パチ、パチ……パチパチパチ。
 
 いくつかの疎らな拍手が、方々から発せられ、少しずつ重なる。
 あるものは苦虫を噛み潰したような顔をし、あるものはひどく迷うような素振りを見せ、あるものは、その目に光るものを見せている。だが……ザハールの時とは違い、誰一人として押し着せの表情ではなく、それぞれの胸に抱く感情を素直に表している。

 最後には、ザハールに向けられたものと勝るとも劣らぬほどの大きな音の渦が、広間を包んだ。
 ラルドリスは舞台に戻ると、忌々しそうな顔を向けるザハールと視線で火花を散らし、隣に並ぶ。
 そして広間内に、二つの投票箱が置かれた銀色のカートが推し進められてきた。
< 300 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop