助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「息子は母を失い、本当の親の愛を知らず……なにが己を満たしてくれるかも分からず、苦しんでいるのだ! なれば一時でも、すべてを与えて満足させてやりたいというのが、そんなにおかしいことか! 親と名乗り出ることもできず、目の前にいる我が子に触れることすら叶わぬこの気持ち、お前などに分かるはずがない!」

 魂を絞り出すような呻き。
 それが引き金だった。魔術師は己に膨れ上がった憎しみと悲しみを大きく籠め、ラルドリスに向けて両手を構える。

「魔女よ。邪魔をするのなら、お前も共に死ぬがいい。第二王子を殺し、あの子が玉座に付く姿を見れば、我が妻マリアもやっと安心して眠れるだろう」
「違いますよ! そんなの、絶対に違います!」

 側妃マリアが自分の競争相手であるジェナに死の間際託した思いを、メルが推し量ることはできない。けれど……ひとり息子を残してゆく母が、地位を、権力をなど望むだろうか。決して、そうであってほしくない……!

「貴方の想いは遂げさせません! だからもう止めて!」
「もう私を惑わすな! 王子と共に逝け!」
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