助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 メルの恐怖の根源は、誰にも理解してもらえない寂しさだ。
 家族という最も近しいはずの共同体から弾かれ、あげく不要物として実の姉妹に処分されかけた、その時の孤独が未だ、心の中には巣食くっている。

 あの時は祖母がいた。その闇からメルを掬い上げてくれた。
 でも今は……彼女はいない。
 黒く濁った、底なしの泥沼に身体が沈んでいくような気がした。
 なにも見えない。両手を動かし藻掻いても、なににも触れられない。
 誰かに拒まれたから、誰も受け入れたくない。
 そんな願いが、決して交わらない距離として具現したかのように。

(もう戻れないかも知れない……あちら側には)

 ふっと、気が途絶えそうになる。
 自分に宿る魔力も、道具も、言葉も……すべてを尽くして。それでもこの命を楯として。
 せめて、彼の身柄だけは、無事でいてくれると、いいのだけれど……。
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