助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「もうこれ以上、ここにはいられないんです……。私たちは、森の者ですから」
「キュッ」

 メルは深く頭を下げ、フードの奥から顔を出したチタがつぶらな瞳を瞬かせる。留まれば留まるほど……居心地のいい彼らの傍に、メルは縛り付けられてしまうだろう。今決断しなければと……意識がずっと警鐘を鳴らしている。
 彼女の決意を見て取ったのか、ふたりはそれ以上追求しようとはしなかった。

「そうですか……こちとらメル殿を王妃に担ぎ上げるために様々な工作と口利きを始めていたんですけどねぇ」
「す……すみません」
「いいんですよ、冗談です。今までのこと、本当に感謝していますよ。ありがとうございました」

 いつものおどけた調子でシーベルはからっと笑うと、手を差し出す。
 あの旅で、彼は冷静かつ余裕のある態度を崩さず、いつもメルたちを安心させてくれていた。これからもきっと、若き次期国王の名補佐役として、ぶれず揺るがず、見事に手腕を発揮して見せるのだろう。
 シーベルの手を握り返すと、次はボルドフが巨躯をかがめ、両手でメルの手を包む。
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