助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「そなたには、感謝のしようもない。よくぞラルドリス様を守り通し、あの方を強くしてくれたな。これからその恩義を返せぬのが残念で仕方がない……。なんとか一日でも多く残ってもらうことはできぬのか?」
「単純に寂しいんですよ、殿下だけじゃなく私たちも。あなたがいないとね」

 ボルドフの言葉をシーベルが継ぎ、仲間だと認めてくれる彼らの気持ちに心が大きく揺らぐ。
 それでも、メルは頑なに首を振った。

「私もです。でも……決めましたから」
「せめて……殿下に別れの一言でも残してくださらんか」
「部屋に手紙を。どうか、それを彼に渡してあげてください」
「そうか……。ならば、約束しよう。いつまでも壮健でな」

 頭を下げたメルに、もう自分では伝えられることがないと思ったのか、ボルドフはメルにきちっとした敬礼を見せ、背中を向けて去っていった。
 お元気でと、少し丸まった後ろ姿に声を掛けたメルに、次はシーベルがなにかを差し出す。

「関所の通行証と、少ないですが路銀です。こんなものしかお渡しできなくて申し訳ない。実家に戻った際には、またナセラ森にも寄らせていただきますよ。なにか目印でもありますか?」
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