助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 そのことがありがたく、小さな幸せをメルは噛み締める。
 とても清々しい気分だ……今ならば、きっと祖母にも、胸を張って報告できる気がする。

 ……この旅は、自分の弱さと向き合う旅だった。目の前で苦しむラルドリスを助けようとしたつもりだったのに……多くの人と出会い、救われたのは自分だった。
 なにかが新しくできるようになったわけではないかもしれない。それでも、確かにメルは蹲っていた場所から立ち上がり、またどこかへ向かって一歩を踏み出すことが出来たのだと、そう思える――。

 道なりにしばらく進んでゆくと、人々の声が届いてくるのに気付いた。驚いた様子の住民たちが通りに出て、しきりになにかを指差し声を交わしているようだ。
 こんな時間に、何かあったのだろうか。

『お……なんだありゃ? 煙が城から立ち始めたや。なにか今日催しでもあったっけか?』
『なんだろねぇ、祭りでもないのに。綺麗だけどさ』

 後ろを振り向いて……目に飛び込んできた光景にメルは、息を呑んだ。
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