助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 だがそこには、もう誰もいない。
 部屋はもうすべてが片付けられており……微かに残る生活の気配と花の残り香を感じながら、彼は唇をわななかせる。

「どういう……どういうことだッ!?」
「殿下、お待ちを……!」

 封筒を落とし、その場から駆け出したラルドリスをボルドフとシーベルがふたりがかりで押しとどめる。

「どけっ、俺はメルを追う! あいつを連れ戻すんだ! あいつには、誰かが傍にいてやらないと駄目だろ……! いったい、いつ出ていった!? お前ら、どうして引き留めなかった! どうして……」
「お読みください」

 暴れるラルドリスに、再度ボルドフが封筒を拾うと突き付ける。
 睨み付けても一向に目を逸らさないその真摯さに、ラルドリスは唇を噛み締めながら手紙を受け取った。
 そして広げ、目を通す――。
< 345 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop