助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『親愛なるラルドリス様へ

 一言も声を掛けず、旅立つ無粋をどうかお許しください。
 この度、無事にあなたをこの城まで送り届け、私の役目は終わりを迎えました……。

 短い旅路の中で、最初は何事もご自分でなさろうとはせず、人頼みだったあなたは大きく変わられました。
 民を想い、次第に大きくなってゆくあなたの背中を見るのは、私にとって大きな心の慰めにもなり、そして気づけばあなたの姿から目が離せなくなっていました。こうしてお別れするのに、胸を引き裂かれるような痛みが感じられるほどに……私はあなたのその生き生きとした朱色の瞳が、とても大好きだったのです。

 けれど……人の生は多くを為すのには、とても短い。
 あなたの歩き始めた道は、これからも多くの困難が続くでしょう。
 それをきっと私は……貴族でもなんでもない私は、支えることができそうにありません。それはあなたの周りにいてくれる、多くの人々の役割になると思うのです。

 そして私は羽ばたこうとするあなたの足枷になりたくもありません。
 だから私を森に帰してください。
 遠くまであなたがこの国を栄えさせてゆくところを、報せてください。

 そしていつの日か、もしあなたにどうしようもない問題があったなら、便りをください。
 そうすれば、私はいつでも駆けつけます。
 森を越え、山を越え……いつか空をも飛べるくらいの魔法を身に着けて。ですから安心して、この国の人々をその明るく大きな器で迎え、励まし、道を示してあげてください。

 そしていつの日かまた、立派になったその姿を私に見せてください。
 短い間でしたが、ありがとう。
                                 ~メル・クロニア~ 』
< 346 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop