助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 過去一度だけ、寿命を延ばす薬を作ってくれなんてことを、お貴族様が頼みに来たことがあった。
 さんざ頭を下げてお帰りいただいたけれど、あんなにしつこい方々のお相手は、もうこりごりだ。なるべくなら、居留守を使って……。

「ピッ!」
「あっ、チタ! ……ったく、しょうがないな~……」

 なにか面白いものを見つけたのか、隠れるより先にチタが駆け出して行ってしまった。
 メルは仕方なくその後を追う。
 トトトと、身軽に林道の上を駆けるチタの尾っぽを目印にしていると、左右に立ち並ぶ木々を抜けて視界が開け、ひとつのものが目に入る。

 それはとても美しい装飾の馬車だった。優美に造られた木製の車体は深い赤に塗られ、枠組みは金箔で彩られている。そこらの貴族では所有することも叶わないだろう。

「ずいぶんご立派な馬車だこと……。うー、面倒な人が乗ってないといいんだけど」
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