助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 その後ろに消えたチタを探し、メルが裏手に回り込む。
 が、誰もいない。

 だとしたら家の中に勝手に入られたのか……。
 警戒したメルがまなじりを険しくし、一歩一歩扉ににじり寄ろうとしたところ。

 ――砂利を踏む音。

 さっと流れる風がこちらに吹き……自然界にはない、けれど思い入れのある香水の薫りが、頭の奥を刺激して。
 メルはその場にピタリと体を止める。

 ゆっくりと心臓が鼓動を速め……確認を恐れる気持ちを、もしかしたらという期待が上回って――。

「面倒な奴が来て悪かったな」
「チチュッ!」
「あ……」
< 353 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop