助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 背後でいきなり、梢の陰から姿を現していたのは、ひとりの男性。
 彼はすらっとした体を動かし、チタをつむじの上に乗せたままゆっくりと近付いてきた。
 細い冠がその額には嵌まっていたが、それよりもメルの目を釘付けにしたのは、今まで見た誰よりも圧倒的に鮮やかに輝く、あの懐かしい、朱の瞳――。

「あ、あ……」
「おう、久しぶり。びっくりさせ過ぎたか?」
「……いいえ、いいえ!」

 ぶんぶん首を振るメルに、ラルドリスは親愛の笑みを向けてくる。その表情は、記憶となにも変わらない。

「変わらないな、お前は」

 そして同じことを考えていた彼も、在りし日にシーベルに渡しておいたあのコンパスを胸に仕舞い、メルの身体を正面からぎゅっと抱きしめた。
 何度も何度も、寂しくなる度に思い出した香りが、メルの胸の中を満たす。
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