助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 ラルドリスは厳しい声を出すと、ぐっと掴む手に力を込めた。

「そんなことじゃない。俺がここに来たのは決してそんなことのためじゃないよ。ちゃんと今の俺を見てくれ」
「ラルドリス様……」

 彼はとてもつらそうな顔をしている。
 こうなるから、見たくなかったのに……。
 メルは吸い込まれるように、ラルドリスの双眸を凝視してしまう。

「長かったよ。あの後父上が無くなり、戴冠の後発足した新政府の体制を整えようと、寝る間もない日が続いた。多くの臣下が俺と納得するまで意見を交わし、新しい国づくりについての基盤を整えた。才能あるもの、熱意を持つ者を拾い上げ、然るべき地位に就けて国家運営が安定するまでに、本当にいくつもの難所があった。けれど、臣下れぞれが身を粉にしてくれたおかげで、少しずつ成果が出始めた。やっと、市井の生活が上向き始めているということが実証され始めたんだ!」
「……よかった、ですね」

 本当に、最近王国では明るい知らせをメルも多く聞いていた。国家全体の収入が増加し、わずかであるが税負担が和らげられたことや、周辺国との友好条約の締結。
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