助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 メルから見える一面の景色が、少しずつ彩られてゆく。
 木々や地面から伸びる草花が開花し、まるでたくさんの花束をより集めたかのような、素晴らしい景色が目の前に現れた。

『皆、メルのことを歓迎してくれているのだよ。この森にようこそと』
『――うん!!』

 メルは満面の笑顔で走っていくと、その中でも一際大きな大樹の幹に抱き着いた。
 そこからは、祖母の手から伝わる温かい体温と同じように、自分を慈しんでくれる気持ちが伝わってくるような気がした。
 その時から、ずっと自然はメルを見守り、育ててくれているのだ――。

「そうか……我々が汲み取れないだけで、あらゆるものに意思があり、彼らもまた俺たちのことを見ているとはな」
「そうだ、ラルドリス様。こちらに戻られたお祝いをまだ、されていませんでしたよね?」
「ん? ああ……そうだったか?」

 思い出話を黙って話を聞いてくれていたラルドリスの前でメルは立つと、草木に近付き祈りを捧げた。
 どうか、この城の主となる彼に、祝福を授けてくれませんかと。
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