助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
森への闖入者
「んうっ、寒い……」
冷たい冷たい隙間風が素朴なベッドの上を撫で……少女は寝返りを打つと目を開けた。
「そろそろ……このボロ家、直さないとな」
二階にあるこの彼女の部屋の壁は、先日強い風で飛ばされた太い枝に当たり、穴が空いてしまった。修繕はしたいけれど、面倒くさくて放置したままだ。
そろそろ冬が来る。そうなればさすがに耐えきれないだろうし、適当に薪を割ったやつでもくっつけておこうか――。そんなことを思いながら彼女は一階に降り、薄暗い部屋のカーテンを開けた。気持ちのいい日差しが通り、雑然とした部屋をほのかに照らす。
少女は部屋の隅に据えられた竈によいしょと鍋を置き、水とカラス麦を潰したものを入れ、火をつけて煮込む。
出来上がりまで少しばかり時間がかかるので、その間に服を着替えた。生成り色のワンピースから、黒フード付きのローブへ。鏡の前でまとまりづらい栗色の髪をざっくりと梳いていると、合間から深緑の目が覗いた。
彼女は魔女だ。
この広いナセラ森で一人で住んでいる。
名をメル・クロニアといい、本当の名前は家を出た時に捨てた。
冷たい冷たい隙間風が素朴なベッドの上を撫で……少女は寝返りを打つと目を開けた。
「そろそろ……このボロ家、直さないとな」
二階にあるこの彼女の部屋の壁は、先日強い風で飛ばされた太い枝に当たり、穴が空いてしまった。修繕はしたいけれど、面倒くさくて放置したままだ。
そろそろ冬が来る。そうなればさすがに耐えきれないだろうし、適当に薪を割ったやつでもくっつけておこうか――。そんなことを思いながら彼女は一階に降り、薄暗い部屋のカーテンを開けた。気持ちのいい日差しが通り、雑然とした部屋をほのかに照らす。
少女は部屋の隅に据えられた竈によいしょと鍋を置き、水とカラス麦を潰したものを入れ、火をつけて煮込む。
出来上がりまで少しばかり時間がかかるので、その間に服を着替えた。生成り色のワンピースから、黒フード付きのローブへ。鏡の前でまとまりづらい栗色の髪をざっくりと梳いていると、合間から深緑の目が覗いた。
彼女は魔女だ。
この広いナセラ森で一人で住んでいる。
名をメル・クロニアといい、本当の名前は家を出た時に捨てた。