助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 そして祖母やメルのような魔女が自然の中に身を置きその声を聞き届けるのと違い、魔術師は世間に身を置き、人の思念……とりわけ負の感情を利用するという。怒り、憎しみ、妬み、苦しみなどの強い感情を集めて力に変化させる。
 もっともそれには相応の代償を求められ、元が黒い感情であることから他者を害することにしか使えない。どころか思念に影響され、精神に異常をきたすことも多いため、祖母からは今ではほとんど伝えるものもいないと聞いていたが……。

「くそっ……王位も、兄弟に争いをけしかける父上もどうでもいい! だが、母だけは……俺のただひとりの大切な家族なんだ! あの人は早くに母を亡くしたザハールにも優しく接し、俺にもできることなら兄弟で争わず、あいつを支えるようにと諭していたくらいなんだぞ! そんな人に罪を被せ、巻き込むようなことを……そうまでして王位が欲しいか、ザハールめっ!」

 飛び出そうとしたラルドリスをシーベルが制止し、再びベッドに背中を押し付けた。

「殿下……今しばらくは堪えてください。まだ体調が回復していないのでしょう? 早く王都に赴きたいのはやまやまでしょうが、せめて魔物への対抗策だけでも講じなければ先の二の舞、無駄に命を散らすだけです!」
「離せよ……! だとしても……今行かなければ俺はこの先、胸を張ってあの人の息子だと言えるものかっ!」
「……キュイ」

 暴れるラルドリスに怯え、チタがメルの首筋にぎゅっとしがみ付く。
 メルは、憤る彼の姿をじっと見つめて考え込んだ。
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