助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「あら魔女様、とっても綺麗なお肌。お手入れはどうされていますの?」
「はあ……サンチノという街の薬屋に卸している特性の美容クリームを……」
「まあ素敵……! 皆見てちょうだい、すべすべよ!」
「本当ねぇ! 少し遠いけれど、私も今度尋ねてみようかしら」

 森の力を注いで栄養たっぷりに育てたハーブや薬草を配合した特製のクリーム。その効果が公爵家の侍女に認められたのは、祖母の実力が示されたようで嬉しい。
が、それはそれとして……思いやられるのは今後のこと。

(この先どうなっちゃうんだろ、私……)

 メルは水面に顔を付け、顔に出た不安を隠す。
 魔術師なんて危険そうなやつから、無事王子様を守り切れるだろうか……。  

(神様ってのは意地悪だよね……。こんなにもたくさんの障害を、生きることにあらかじめ組み込んでおいたんだから)

 ラルドリスにしても、自分にしてもだ。どうして生きてゆくだけでこんなにも厳しいことに立ち会わなければならないのか。この湯船のように、もっと温かく世の中が自分たちを受け入れてくれればいいのに……。
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