助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 フラーゲン領の西にある、アルクリフ王国の王都クリフェン。
 その中心に高く聳える立派な城のバルコニーで、一人の銀髪の男性が声を荒げている。

「失敗しただと? やり手の魔術師だと聞いていたのに、口ほどにもないではないか!」

 男性の名は、ザハール・アルクリフ。アルクリフ王ターロフの側室マリアの子にして、第一王子の身分にある者だ。
 その怒りを受け、足元に跪く怪しげな人物が、低く不気味な声で答えた。ザハールの言動からするに、彼こそがラルドリスを追い詰めた恐ろしい魔術師であるのだろう。

「返す言葉もございません。護衛の兵士どもが頑強に抵抗したため、ラルドリス王子を確保することは叶わず……。手傷は負わせたらしく、いずこかで野垂れ死んでいる可能性もありますが」
「それを這ってでも探し、殺すのが貴様の仕事だろうが!」
「まあまあ、そのくらいで。相当に痛めつけたようですし、どうせフラーゲン領内で縮こまって帰っては来れぬでしょう」
「油断出来んのだよ……やつが死んだ証拠をこの目で見るまではな。ベルナール公爵よ、貴様もラルドリス派には手を焼いているそうだが、抜かりはあるまいな? もし奴らの掌握に失敗すれば、宰相たる貴様もただでは済まんぞ」
「お、お任せくださいませ。五年前より、我が領から追加で徴収し出した税を使って、多くの臣下を味方につけております……。それにザハール様とラルドリスめを実際に見れば、どちらが玉座に相応しいかは一目瞭然! もはやあなた様の陣営は盤石かと。……では、私は仕事がありますのでこれで」
< 60 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop