助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 魔術師の隣で髭をしごいていた小太りの宰相ベルナールは、自らを矛先にされまいと耳障りの言い言葉を並べて退出していった。それで少しばかりザハールの溜飲は下がったようだ。

「……まあよい。やつは母親を決して見捨てまいが……父上が身罷るまでに姿を見せなければ、それもまたよし。まったく忌々しいラルドリス派の者どもめ……あやつが重要な時期にこの王都を不在にしておるということが、継承者としての自覚なさを知らしめているようなものだろうが。私が玉座に着いた暁にはやつらなど、全員この城内から……いや、国外へ追い出してやるわ!」

 本来継承権を与えられるはずのない、側室の子であった彼は、父親であるアルクリフ王の思惑により現在弟と王位を争っていた。
血筋を重んじ争いを避けようとするのなら、彼こそが正室の子であるラルドリスに王冠を譲り、どこか別の地に移り住むべきであったのかもしれないが……ザハールはそれを選ばなかった。

「魔術師よ、ラルドリスを必ず殺せ……! 幾度失敗しようとやつはこの城に戻ろうとするはず。次は吉報を持ってこい! さすれば褒美は望みのままよ!」
「必ずや」

 彼の強い命令に応じ、詰られるままとなっていた魔術師は短く答えてゆらりと立ち上がる。
 なんらかの意思を示したわけではない。だが、その焦げ茶の前髪の奥で濁った瞳が彼を捉え、ザハールはごくりと唾を呑み込んだ。
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