助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 そして魔術師もそのまま生気のない足取りでバルコニーを後にし、部屋の扉から姿を消した。宮廷にはそぐわない、怪しげな黒装束の男などに一瞬気圧されたのが気に入らず、ザハールは背中に向けて舌打ちする。
 
「ふん……素性の知れぬ卑しい男だが、ラルドリスさえ消してくれるなら他はどうでもいい。王位を脅かす者がいなくなれば……すべてが我が掌中に収まるのだからな! ハァッハッハッ!」

 まだ国王が生き永らえているにもかかわらず、誰に聞かれても構わないというようにザハールは笑いを響かせる。もはや彼には自分が次期国王になるという強い確信がある。後は、競争相手が消えるのを待つのみ。そうすれば、この国のすべてが彼の思うがままだ。

 ザハールは部屋に戻るとソファに腰を落ち着けた。
 隣にはひとりの女性が静かに座っており、彼に微笑みかけてくる。

「弟君のことは残念でしたわね。繊弱そうな出で立ちでしたが、意外と運は強いようで……」
「ククク、そうそう何度も事は上手く運ぶまい。それにしてもよく役に立ってくれたな。まさか正妃ジェナも、あの侯爵家から送られ何年も傍付きとして働いてきたお前が裏切るとは、よもや想像もしていなかっただろう――」
「……事が成り、正式に王座に就かれるまでは、あまり滅多なことは言わぬほうがよろしいかと」
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