助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 そっと――唇に女性の細い指が添えられ、ザハールは声を潜める。

「すまぬすまぬ。しかし、もう時は間近。お前はこの私の妃としていずれ国民たちの崇敬を一身に受ける身となるだろう。その事実がいっそうお前の美を輝かせる……楽しみだ」
「ありがたき幸せ」

 言葉に答えるように、女性はザハールの頬を優しくなぞった後、その手を取り指先に口づけた。

「あなた様ならばいずれ、必ずやこの国を今以上に栄えさせ、覇業を成し遂げし王として他国にも広く名を知れ渡らせることでしょう。及ばずながらわたくしも側に侍り、お力添えをさせていただきたく……」
「ああ、許そう。ではその前祝いといくか」

 他には誰もいない室内で、女性は侍従に開けさせておいたワインをグラスに注ぐ。ルビー色の液体がゆったりとふたつのグラスを満たし、ふわふわと揺らいだ。
 ザハールはその一方を受け取ると、彼女と軽くグラスの淵を合わせる。

「あなた様が王となり、栄光を掴むと信じまして……」
「ああ、乾杯だ。輝かしい私たちの未来のためにな」
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