助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

なにも知らない王子様

 夜明け前にフラーゲン邸を出発し、太陽が周囲を完全に照らすようになった頃。
 道脇に馬車を止め御者台から降りたシーベルが、王国兵がいないか確認しつつふたりに伝えた。

「一旦小休止します。このまま駆け続けたいのは山々ですが、しばし馬を休ませてやらないといけませんからね。この辺りが妥当でしょう」
「わかった。軽く食事したいが、なにか持ってきているか?」

 ラルドリスがシーベルに尋ねると、彼は馬車後部の荷台を探し始める。

「少しお待ちくださいね……。クラッカーや塩漬け肉、水などであれば」
「味気ないな……ま、仕方あるまい」

 シーベルは平気そうだが、車内の王子はやや不満そうだ。
 今はもう冬がやってこようという時期で、中にいようと肌寒い。
 この追っ手から逃げる旅で酒で体を温めるわけにもいかず、城でぬくぬくとした生活を送っていた彼には辛いところだろう。

 できることなら自分も温かいものを口にしたいと思ったメルは、森育ちの本領を発揮するべく席を立った。
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