助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 マーティル侯爵家の娘であった姉のティーラとメルローゼ。二人はその年までは仲の良い姉妹だった。少なくとも表向きは。
 メルローゼは面倒見の良かった姉に懐いていた。しかしティーラは時々、メルローゼに対して意味もない意地悪をすることがあった。後ろからドレスの裾を踏んづけたり、食事の時、自分の嫌いなものをメルローゼの皿にこっそり移したり(セロリやクレソンは彼女も苦手だったのに)。
 でも、それ以外はティーラはメルローゼに優しくしてくれていたから、あまり彼女は気にしなかった。一種の愛情表現だと思っていたのだ。

 しかし、あの少年が現れてから、ティーラは変わった。すごく酷いことをするようになった。
 メルローゼの髪を寝ている間に切ってしまったり、靴の中に傷んだ果物を入れたり。顔を合わしても、強く貶す言葉が口を突いて出るようになり、メルローゼは姉と会うのがすっかり怖くなった。
 それでも、どこかでティーラのことを信じていたメルローゼは、必死に彼女の後ろに付いて回った。だがそれはティーラの苛立ちを募らせるだけだったようだ。何度かの少年の訪問の後、ある事件が起こった。

 薄曇りが空を包んでいたその日。
 メルローゼは久々にティーラに誘われ、屋敷の者を伴い外出していた。
 その日の姉は優しく、彼女は久々に穏やかな気持ちで街の散策を楽しんでいた。
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