助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 未だ指先がかじかんでいるのか、手の平を開け締めするラルドリス。あの後、興味深そうにしていた彼に、メルは自分と交代して少しだけ食材を切ってもらった。手付きは大変危なっかしかったが、食材を洗う時と同じように楽しそうにしていた。

「シーベル、中々面白かったぞ料理は。肉、野草、茸……それぞれ切っている時の感触が異なる。横よりも縦に裂く方が簡単だったり……どうやら食材を鍋に入れるのにも順番があるようでな。料理人たちが日頃、こんなにも手間をかけた、頭の使う作業をこなしているとはな」

 ラルドリスが神妙そうな顔でスプーンに茸の欠片をよそってみせ、シーベルが笑みを見せる。

「新たな知識を得られたのなら、ようございました。今回のことは殿下にとってもよい社会勉強になりそうですね。料理人だけではなく、あなた様が着ておられるその服も、肌艶を保つ石鹼や油、お使いになるペンやテーブルなども、それぞれに職人たちの膨大な努力が篭っているものです。たまにはそのことを思い出してやってください」
「うむ……心に留めておこう」

 彼は感謝すると一言呟き、冷ましもせずまだ湯気の立つスープを口に運ぼうとする。
 そこをメルが止めた。
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