助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「もう少しお待ちになった方がよいですよ。まだ熱いですし」
「お、そうか……。ならば冷めるまで、なにか面白い話をしてみせよ。俺は今日のことで国民の生活に興味を持った。お前たちの暮らし向きをもっと教えてくれ!」

 好奇心を宿すラルドリスの笑顔がこちらへ向き、メルはどきりとする。
 無垢な純粋さが眩しくて、メルは膝の上のスープ皿に目を逸らした。

「わ、私は魔女ですから。街での暮らしはあんまり知りませんし……」
「そうか、お前は森に住んでいるのだったな……。じゃあ聞くが、今日の食材は全てそこから取って来たものなのだよな? 自然にはこんなにも食べるものが沢山あるというのに、なぜお前たちのような者しか森に住まない? 人はなぜ、わざわざ何もない場所に街をつくりたがる?」
「さ、さあ……」

 そんなことを聞かれたって、メルは学者ではないのでよく分からない。生まれた時からそうしていれば、あえて持つ必要のないであろう疑問に戸惑うばかりだ。

「わかりませんけど……単純に不便なのと危険だからでは? 私たちの小屋だって完全な森の中にある訳ではありませんし。獣などの外敵も多いですし」
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