助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「それもそうだが、自然の方が広くて静かで落ち着くじゃないか。俺も城に居た頃城下街を見て回ることはあったが、賑々しいのはいいとして、あまりにせせこましい場所に閉じ込められているように思えてな……。あれでは皆、疲れてしまわないか?」

 生まれてこの方広大な城や屋敷にしか住んだことのない者としては疑問に思うことも多いのだろう。少し嫌味にも思える王子の発言に、シーベルがやんわり窘めるように口を挟む。

「まあ、そういう施政を布いているのも我々ですからね。かつては森や丘であった土地を切り拓き、街を作ってそこに彼らを住まわせ、決められた税を取る。その代わりに、民には手に余る問題、例えば何者かの侵略や自然災害などに迅速に対応したり、彼らが幸福に生活できるような地盤を整える。それが我々国に仕える者の仕事です」
「……そうだったな、すまん。誰もが住みたい場所に、自由に住めるわけではないのだよな」

 少し反省したラルドリスの横顔からは、彼ほどの身分であっても、決してその生活が望む通りのものでは無いのだと、なんとなく察せられた。シーベルは苦笑して頷くと、先程の疑問に話を戻す。

「少なくとも、この国では良識を備えた領主たちが民の生活に心を砕いていますから、そこまで多くの者が不満を持っているわけでは無いと思いますよ。気心の知れた中ならば、かえって近い距離にいた方が安心できるというものですし。それに、自然の中で住むというのは言うほど簡単なことではないのでしょう、メル殿? 突発的な災害などで困ることも多いのではないですか?」
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