助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 しかし、それは単なる気晴らしなどではなかった。
 メルローゼは目的も知らず手を引かれ、姉の言う通りに着いて行っただけなので気付かなかった。だんだんと自分たちが人気のない場所へと近付きつつあることを。

 その内、廃屋が目立つ寂れた一角に差しかかると、辺りに潜んでいた何者かがメルローゼたちを取り囲む。見るからに怪しげなその風体に彼女は怯え、姉を見上げた。
 姉は変わらぬ微笑みで見返してきて、メルローゼはそれを、最初は自分を安心させようとしてくれているのだと思った。周りには使用人たちもいるのだから、きっと大丈夫。
 だが、そんな予想はすぐに裏切られる。
 ティーラが、ドレスの裾を掴むメルローゼの手を突然振り解く。
 そして、ひっそりと耳元で言った。

『メル、あなたが邪魔なのよ。消えてちょうだい?』
『お、お姉様……っ!?』

 ティーラはとても穏やかな笑みのまま、メルローゼを突き飛ばし怪しい男たちの中へと追いやる。
 よろけて膝を突いた彼女の隣に、金貨の入った袋が投げ落とされた。
そしてそれごと、メルローゼは男たちに抱えられた。
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