助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

王国兵の追跡②

 あれから数時間、日暮れに向けて少しずつ太陽が下がり出した頃。

「おい、メル。そろそろ機嫌を治せ」
「…………」

 不機嫌なままで顔を合わそうとしないメルに、ラルドリスがしつこく話しかけてくる。
 怒りはまだ冷めやらないが、このままずっと気まずいまま旅を続けるのもなんである――そう観念した彼女は、ようやくラルドリスの方を向いた。
 自分の頬にまだ血が上っていないかが、少し気にかかった。

「駄目なんですよ、寝ている女性に抱き着いたりしたら……。お城でも他の人にあんなことを?」
「そこまで馬鹿じゃない。それに、城ではこんな不自由を感じることはなかった。今思えば、周りがずっと気を使ってくれていたのだろうな。さっきは本当に寒くて、ああするしかなかったんだ。許せ」
(この人は……)

 今もラルドリスは寒そうに薄い毛布に包まっている。どうやら本当に悪気は無さそうだ。近づいて身だしなみを整えてやりながら、メルは王族と一般市民の意識の隔たりが広く深いことを今更ながらに認識した。彼はきっと、このまま街に放り出されても自分の力で暮らしてはいけないだろう。
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