助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『は、離して……! だ、誰か助けてっ! お姉様!』
 
 ばたつき悲鳴を上げるも、ティーラはおろか、屋敷の者たちも誰一人とそれに反応しない。その姿がもと来た道へ遠ざかってゆく。

『お姉様、どうして!? 皆、助けてよぉっ! やだ、お家に返して……誰か――』
『静かにしろ!』

 囚われのメルローゼは口を塞がれ、拘束されたまま分厚い布袋に詰め込まれると、どこだか分からない場所へと運ばれてゆく。息苦しい状態で、何らかの乗り物に乗せられて数時間が経過したその後。

 袋から出され、口元を覆う布だけが外される。どうやら周りを見るに、鬱蒼とした森の中のようだ。
 男の一人が怯えたメルローゼを見下ろし、あくどい笑いを向けた。

『へへへ……足が着くと困るんで始末しろとは言われちゃいる……が、俺らも流石に無抵抗のガキに手をかけるのは心が咎めるんでなぁ。獣にでも襲われて死んでくれや』

 男はその言葉を最後に、メルローゼを置き去りにしたまま仲間と共に背を向ける。
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