助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 膝立ちの美しい姿勢から、彼は後方の解放部から引き絞られた矢を放つ。

「うぐぁっ……」

 鋭い音がした後悲鳴が上がり、急に先頭の一人が馬ごと体勢を崩して道に倒れ込む。見事どこかに命中したらしい。
 この調子なら……そう思ったメルだったが、次につがえられたシーベルの矢は放たれなかった。

「くっ……」

 がくがくと、馬車が不安定に横揺れる。おそらく操るラルドリスが悪戦苦闘しているのだろう。そのせいか、足場が安定せず狙いが定まらない。
 その間に兵士ふたりは剣を納めると、自分たちも背負っていた弓をとり、こちらへ向けて放ってくる。

 ――ドシュシュッ。

 幸い旅の荷物が盾となりここまで届かなかったが、下手に荷物の影から姿を現せば訓練された兵士の矢に貫かれるだろう。牽制の矢が幾度も放たれ、その間にも、どんどん双方の距離は縮められていった。このままでは、乗り移られてしまう……!
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