助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 風に巻き上げられそうになった兵士の足が止まる。じっとしているのがやっとの彼らを見て、そこでメルは叫んだ。
 
「シーベル様、今です! 矢を!」
「さすが魔女! ここで決めねば格好が付きませんな……やっ!」

 シーベルは口元を引き結ぶと弓をつがえ、勢いよく二連射する。

「この風が……くおおぉぉっ!」
「ぐあぁぁぁぁっ!」

 まるで、引き寄せられたかのように正確に飛んだ矢が、突風に抗い身を屈めた兵たちの騎馬を貫く。
 彼らは情けない声を上げながら落馬していき、同時にその風が馬車を後押しして、瞬く間に双方の距離が開く。

「ふぅ~っ……」

 遠ざかる兵士たちの姿が完全に消えるのを確認してから、メルはその場にへたへたと腰を下ろす。そこへシーベルが手を差し出し、引っ張り上げてくれた。
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