復讐は恋を妨げる
第三話 相互利益の婚約



〇岬のマンション
高層マンション。
上条財閥の次男だけあって、高層マンションに住んでいる。
 
広いリビングにちょこんと座る結奈。
結奈(勢いで来ちゃったけど……この状況、大丈夫かな?)

ゆっくり近づいてくる岬。
手を出されると思い、顔を赤くする結奈。
岬、結奈の顔の数センチ手前で止まる。

岬「顔色、やばいぞ。明日は力づくでも病院連れていくからな!」
結奈「……うん」

手を出すわけではなく、結奈の顔色を確認した岬。
 
結奈「びっくりした。手出されるかと思った)
結奈(今日は病院に戻りたくないっていう私の意見聞いてくれたんだ。意外にいい奴?)

結奈「結構いい人だったりする?」
岬「はっ? ただ利用したいだけだし……」
少し頬を赤らめながら、拗ねたような顔をする岬。(憎めない感じ)

 
岬「今後のことを話したいところだけど……体に障るから今日は寝ろ」
結奈「う、うん」
岬「俺はソファで寝るから、ベッドある部屋はあっち」
結奈「え、悪いよ。私がソファで寝るよ」
岬「病人をソファで寝かせるわけにはいかねーだろ」
結奈「病人って……」

ぶっきらぼうに吐き捨てて、結奈を寝室に押し込む岬。

結奈「……普通にいいやつじゃん」
ぽつりとつぶやく結奈。


〇場面転換・病院(朝)

次の日。
病室でベッドに座っている結奈。
結奈モノローグ(昨日は大きなベッド寝かせてもらって、朝起きると強制的に病院へと連れてこられた)
結奈モノローグ(文句言うくらいなら放っておけばいいのに。ぶつぶつ文句言いながらも、きちんと連れてきてくれて。酷いやつなんだか、優しいんだか分からないな)
 
結奈「これからどうしよ……」
窓の外の景色を見ながら、ひとり呟く結奈。
今後のことを考えて落ち込む。

病室のドアが開く。
慌てた様子の結奈母、病室に入ってくる。
結奈母「結奈っ! もう……心配したんだから」
結奈「お母さん」

涙目の結奈母、結奈に駆け寄る。

結奈母「でも……結果的にはよかったわね」
結奈「よかった……?」
結奈母「だって、他の女に簡単に乗り換えるような男に、大事な娘は渡せないわよ」
結奈「……」
結奈母「それに、岬くんもとても好青年で良い人そうじゃない?」
結奈「なんで岬くんの名前が出てくるの?」
結奈母「だって岬くんと交際するんでしょ? 驚いたけど、結奈一人でいるよりは安心かなって」
結奈「はあ? お母さん、何言ってんの?」

結奈母の言葉に驚く結奈。身に覚えがない。

結奈母「岬くん、挨拶にきてくれたのよ?」

〇回想シーン・結奈の実家(朝)
岬、結奈実家を訪れる。
岬「昨日は結奈さんの気持ちを第一にと思って、俺の家で休みました。すぐに病院に戻らず申し訳ありません」
結奈母「……司さんの弟さんよね?」
岬「この度は兄が申し訳ありませんでした。結奈さんのことは俺が見守ります。何があっても兄貴みたいに見捨てません」

結奈母に頭を下げる岬。
 
(回想シーン終了)

〇元の病室
 
結奈「何それ……」
結奈(なんで岬くんが実家に挨拶に行くの? 意味が分からない。何を企んでるんだろう)
岬「結奈、身体は辛くないか?」
病室に現れた岬。
猫被りの好青年の態度で現れた岬。
結奈母は岬にすっかり気を許している。
 
結奈母「岬くん。今朝はどうもありがとう」
岬「いえ、僕の方こそ、早朝から失礼しました。温かく迎えてくれて、さすが結奈さんのご両親だなと感じました」
営業スマイルで媚びを売る岬。
結奈、あっけにとられながら、岬を見つめる。
結奈(ここまで二面性が上手だと、もうすがすがしいな)

岬「お母さん、結奈さんは検査も異常なく、退院していいそうですよ。僕の家にいったん帰りますね」
結奈「なっ、勝手に……」
結奈、岬の言葉を拒否しようとする。

結奈母「あらー。それは助かる。お母さん、仕事があってね。岬くんにお任せしてもいいかしら?」
岬「はい。もちろんです」
爽やかな笑みを浮かべる岬。
母、安心したようにほっとする。
そんな母を見て何も言えなくなる結奈。


母が帰り、二人きりになった結奈と岬。
さっきまでの好青年の岬の表情が、不愛想にがらりと変わる。
岬「で?これからどうすんの?」
結奈「あなたが家に帰りますって言ったんじゃない」
岬「あの場で拒否もできたはずだろ?俺たちはそんな関係じゃないって」
結奈「そうだけど……」
結奈(お母さんにたくさん心配かけてしまった。あんなにほっとした顔見ちゃったら、言えなくなっちゃった)

岬「娘が交通事故で意識不明になった挙句、婚約者に捨てられたら、そりゃあ、母親だったら疲労もするわな」
嫌味ったらしくいう岬。
結奈「……っ。その通りだよ。もう、お母さんに心配かけたくないんだよ。だからあなたとのことも、否定しなかった」
俯く結奈。

岬「ちょうどいいじゃん。俺は復讐のためにあんたを使うから、あんたは母親を安心させる材料として、俺を使えばいい」
結奈「使うって……」
岬「winwinじゃん?」
結奈「……」
岬「相互利益のために、手を打とうよ」
結奈(まだこの人のこと、全然知らない……。でもお母さんを安心させるには、必要なのかもしれない)
結奈(それに……あの子(美香)のことはどうしても許せない)

結奈「いいよ……とりあえずあなたの話に乗るよ」

俯く結奈の頬を無にゅっと掴み、グイっと上げる岬。

岬「み、さ、き。俺の名前、あなたじゃないから」
結奈「……ふにゃ、みさきくん(頬を掴まれてるのでうまく話せない)」

岬「手始めに、結奈には俺の婚約者になってもらう」
結奈「婚約者!?」
驚いて声を上げる結奈。
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