「恋愛ごっこ」してみないか?―恋愛のしかたを教えてあげる!
第9話 変身したらもて始めてとうとうライバルが出現した!
月曜日、会社の廊下で向こうからどこかでみたことのあるリクルートスタイルの女子が歩いてきた。近づくとそれが沙知だと分かった。
ただ、眼鏡をかけていない。おそらく『ごっこ』の時のようにコンタクトに変えている。髪はカットしてショートにしている。このショートカットがなんともいえないくらい似合って彼女を綺麗に見せている。
上着の下はフリルのついた淡いピンクのブラウスに変えている。メークアップも上手にしていて派手さがなく清楚な感じがする。とても綺麗に変身している。「恋愛ごっこ」の時とはまた別の綺麗さ可愛さだ。
じっと見ていると、すれ違いざま、いつもと違って僕にニコッと微笑んだ。会社にいる時の以前の彼女とはまったく違うイメージチェンジをしたのには驚いた。
綺麗に可愛く変身するのは『恋愛ごっこ』の時だけで、会社ではいつものとおりにしていると言っていたのに、どういう心境の変化だ。僕にだけ綺麗で可愛い沙知を見せてくれていたのにどうしたのだろう。気になってしかたがない。
昼食時に食堂で広報部の山本君と一緒になった。
「吉岡さん、後輩の上野さんが綺麗に可愛く変身したって知っていますか?」
「ああ、午前中に廊下ですれ違って驚いた」
「どういう心境の変化なんですかね。あんなに綺麗で可愛かったんですね。皆、見る目がなかったですね。仕事も真面目で性格も良くてよい娘だとは思っていた。ただ、見た目がとても地味だったから敬遠されていたみたいだけど、これからはすごくもてるよ。だって、私服に着替えたらみんな振り向くほどもっと綺麗で可愛くなるに決まっているから」
「見た眼で対応を変えるなんて見る目がないな。あの娘はもともと可愛くて良い娘だよ」
「面倒を見てきたかいがありましたね」
僕は以前から綺麗で可愛いことは知っていたと言いたかったが、やめておいた。それよりも山本君の発言を聞いて、さらに不安が募ってきた。
ほかの若い男が沙知の可愛さに気づいて交際を申し込むかもしれない。いや、それは必ず起こるだろう。沙知は僕より若くてかっこいい男に惹かれることは十分予想される。
こういうことを考えること自体、僕が沙知に惹かれているということを物語っている。まさしく沙知に惹かれているし、好きになっている。これは間違いない。僕はどうすればいいんだろう。土曜日の晩に沙知を僕のものにしておけばこんな心配はしなくてよかったのかもしれない。
◆ ◆ ◆
突然、沙知が綺麗で可愛く変身して通勤するようになって、2週間がたった。あれ以来、廊下ですれ違うと、以前のよそよそしさとは違って、目を合わせてニコッとする。どういう意味だろう。ほかの人にもニコッとしているのだろうか?
夜、食事を終えて、ウイスキーの水割りを飲んでテレビを見ていると、携帯に電話が入った。沙知からだった。今頃なんだろう。
「先輩、ご相談があります」
「何か困ったことでもできたのか?」
「あのー、総務課の荒木さんから食事に誘われたんですが、どうすればよいかと思って迷っています」
「ええっ、食事に誘われた!」
恐れていたことが、もう起こってしまった。動揺が隠せなかった。落ち着け、落ち着け。気を取り直して、平静を装う。
「荒木君と言えば、確か有名国立大学出身で、総務課でも超エリートだぞ」
「そうです。すごくかっこいい人です。廊下で呼び止められて、今度一度夕食でも一緒にしないか、あとで連絡するからとそっと言われました。まだ連絡はありませんが」
「へー、それで、どうするつもりなんだ」
「どうしてよいか分からないから相談しているんです」
「受けてみたらどうかな。『恋愛ごっこ』もしているから、なんとかなるだろう」
「すごく緊張しています。荒木さんはすごくかっこいいから、声をかけられるなんて思ってもみなかったので」
「確かにこの前上野さんが惚れたと言っていた新谷君よりかなり良いとは思う。ただし、彼女がいるかどうかは分からないし、同じようにほかの誰かとも食事をしているかもしれないが、それは分からない」
「そうですね」
「何事も経験だから、気楽に受けてみればいいじゃないか? 恋愛において一番大切なことは、自分の気持ちに正直になることだと思うけど、どうなの?」
意に反してこう言っている自分が分からなくなる。荒木君にもう気持ちで負けている。
「よく考えてみます。夜分、相談にのっていただいてありがとうございました」
沙知はなぜ僕に相談の電話をかけてきたのだろう? 『恋愛ごっこ』をしている僕に遠慮してか? 考えてみると言っていたが、どう答えるか心配だ。いっそ断れと言った方がすっきりしたのに、とてもそうは言えなかった。僕の悪いところだ。でもこれは沙知自身が決めることだ。
◆ ◆ ◆
次の日の晩の同じころにまた沙知から携帯に電話が入った。すぐに出る。
「どうした?」
「荒木さんからお誘いの電話が入りました。それで今週の土曜日に渋谷でデートすることになりました」
「そうか、それはよかった。頑張って」
「結果はご報告します」
「分かった。なら話を聞くよ。『恋愛ごっこ』の指導者だから責任がある」
「お願いします。じゃあ」
電話が切れた。二人の成り行きはどうなるのだろう。とても心配だ。
ただ、眼鏡をかけていない。おそらく『ごっこ』の時のようにコンタクトに変えている。髪はカットしてショートにしている。このショートカットがなんともいえないくらい似合って彼女を綺麗に見せている。
上着の下はフリルのついた淡いピンクのブラウスに変えている。メークアップも上手にしていて派手さがなく清楚な感じがする。とても綺麗に変身している。「恋愛ごっこ」の時とはまた別の綺麗さ可愛さだ。
じっと見ていると、すれ違いざま、いつもと違って僕にニコッと微笑んだ。会社にいる時の以前の彼女とはまったく違うイメージチェンジをしたのには驚いた。
綺麗に可愛く変身するのは『恋愛ごっこ』の時だけで、会社ではいつものとおりにしていると言っていたのに、どういう心境の変化だ。僕にだけ綺麗で可愛い沙知を見せてくれていたのにどうしたのだろう。気になってしかたがない。
昼食時に食堂で広報部の山本君と一緒になった。
「吉岡さん、後輩の上野さんが綺麗に可愛く変身したって知っていますか?」
「ああ、午前中に廊下ですれ違って驚いた」
「どういう心境の変化なんですかね。あんなに綺麗で可愛かったんですね。皆、見る目がなかったですね。仕事も真面目で性格も良くてよい娘だとは思っていた。ただ、見た目がとても地味だったから敬遠されていたみたいだけど、これからはすごくもてるよ。だって、私服に着替えたらみんな振り向くほどもっと綺麗で可愛くなるに決まっているから」
「見た眼で対応を変えるなんて見る目がないな。あの娘はもともと可愛くて良い娘だよ」
「面倒を見てきたかいがありましたね」
僕は以前から綺麗で可愛いことは知っていたと言いたかったが、やめておいた。それよりも山本君の発言を聞いて、さらに不安が募ってきた。
ほかの若い男が沙知の可愛さに気づいて交際を申し込むかもしれない。いや、それは必ず起こるだろう。沙知は僕より若くてかっこいい男に惹かれることは十分予想される。
こういうことを考えること自体、僕が沙知に惹かれているということを物語っている。まさしく沙知に惹かれているし、好きになっている。これは間違いない。僕はどうすればいいんだろう。土曜日の晩に沙知を僕のものにしておけばこんな心配はしなくてよかったのかもしれない。
◆ ◆ ◆
突然、沙知が綺麗で可愛く変身して通勤するようになって、2週間がたった。あれ以来、廊下ですれ違うと、以前のよそよそしさとは違って、目を合わせてニコッとする。どういう意味だろう。ほかの人にもニコッとしているのだろうか?
夜、食事を終えて、ウイスキーの水割りを飲んでテレビを見ていると、携帯に電話が入った。沙知からだった。今頃なんだろう。
「先輩、ご相談があります」
「何か困ったことでもできたのか?」
「あのー、総務課の荒木さんから食事に誘われたんですが、どうすればよいかと思って迷っています」
「ええっ、食事に誘われた!」
恐れていたことが、もう起こってしまった。動揺が隠せなかった。落ち着け、落ち着け。気を取り直して、平静を装う。
「荒木君と言えば、確か有名国立大学出身で、総務課でも超エリートだぞ」
「そうです。すごくかっこいい人です。廊下で呼び止められて、今度一度夕食でも一緒にしないか、あとで連絡するからとそっと言われました。まだ連絡はありませんが」
「へー、それで、どうするつもりなんだ」
「どうしてよいか分からないから相談しているんです」
「受けてみたらどうかな。『恋愛ごっこ』もしているから、なんとかなるだろう」
「すごく緊張しています。荒木さんはすごくかっこいいから、声をかけられるなんて思ってもみなかったので」
「確かにこの前上野さんが惚れたと言っていた新谷君よりかなり良いとは思う。ただし、彼女がいるかどうかは分からないし、同じようにほかの誰かとも食事をしているかもしれないが、それは分からない」
「そうですね」
「何事も経験だから、気楽に受けてみればいいじゃないか? 恋愛において一番大切なことは、自分の気持ちに正直になることだと思うけど、どうなの?」
意に反してこう言っている自分が分からなくなる。荒木君にもう気持ちで負けている。
「よく考えてみます。夜分、相談にのっていただいてありがとうございました」
沙知はなぜ僕に相談の電話をかけてきたのだろう? 『恋愛ごっこ』をしている僕に遠慮してか? 考えてみると言っていたが、どう答えるか心配だ。いっそ断れと言った方がすっきりしたのに、とてもそうは言えなかった。僕の悪いところだ。でもこれは沙知自身が決めることだ。
◆ ◆ ◆
次の日の晩の同じころにまた沙知から携帯に電話が入った。すぐに出る。
「どうした?」
「荒木さんからお誘いの電話が入りました。それで今週の土曜日に渋谷でデートすることになりました」
「そうか、それはよかった。頑張って」
「結果はご報告します」
「分かった。なら話を聞くよ。『恋愛ごっこ』の指導者だから責任がある」
「お願いします。じゃあ」
電話が切れた。二人の成り行きはどうなるのだろう。とても心配だ。