君の隣にいられたなら。
「何にやついてんの?」
「わっ!……綺音か。どうしたの?」
「いや、にやついてるなあって」
「そんなことないよ」
「そんなことあったよ。茉白今日ラーメンどう?」
「今日は実里とデートだから」


教科書の使ったページにまさかの直書きされたメモを指さすと、綺音は少し苦笑いした。実里らしいね、とも。


「そっか。じゃあまた誘う」
「うん」


教室に入っていく綺音の背中を見つめていると私の背中にとんっと軽い衝撃があった。
振り返ると、実里だった。
他の女の子だったら、と一瞬冷や汗が流れたけど、安心した。


「茉白ってさ」
「なにー?」
「綺音と話すんだね?」
「うん、まあ。話しかけてくれるから」
「中学のときは頑なに話さなかったのに?」


実里は私が持っていたいちごミルクのストローをしれっと咥える。
その視線は、去っていった綺音の方角。


中学の、特に最後の方は全く話さなかったから。
実里もこの変化にちょっと驚いているみたい。
心配も。してくれてる。


「うん、まあ。環境変わったから」
「ふーん。まぁ、茉白が無理してないなら私はなんでもいいんだけどね」


実里はポツリとこう続けた。


また付き合い出したのかと思った、と。


そう。


私、秋野茉白と、彼、尾崎綺音は。


中学の頃、付き合っていた。
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