君の隣にいられたなら。
私が別れを切り出したとき、表情を歪めて何かを言おうとしていた。
でも優しい彼は何も言わずにわかったとだけ言って、悲壮感漂う背中を私に見せて先に帰っていった。


あのときは、彼を傷つけたとかなり落ち込んだけれど。
前に進んでいるなら。
よかったと思う。


カバンにかかったうさぎのぬいぐるみを握る。
むぎゅむぎゅ揉むと、顔がきゅっと引っ張られて寂しそうな表情になった。


パタパタと走っていく足音が聞こえた。
1人分。おそらく女の子の方。
あとは綺音が帰ってくれたら、と思って立ち上がると、柱の裏から、綺音がちらっと覗き込んだ。


「わ、」
「茉白、俺と会うたびに驚いてる」
「急に出てくるのが悪いよ」
「別にそんなつもりはないけど」
「……気づいてたの?」
「バッチリ見えたよ」


ですよね。
やっぱり見えちゃってたよね。
だって私からもしっかり見えたんだもん。


「盗み聞き?趣味悪いね」
「ち、ちがう。別にしたくてしたわけじゃないんだよ?たまたま通っちゃって」
「別に、いいよ。そっちの方が俺的には都合良いかも」


イタズラっぽく笑う綺音に不意に胸がギュッとなった。
別れてもまだ、私にこんな笑顔を向けるだなんて、罪深い人だ。
こんな人、モテないわけない。
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