【掌編】日常の中の非日常〜あやかし編〜

糸雨

「って、なんだ? 雨?」

鳥居をくぐった途端鼻先に冷たいものが当たった。
ポツポツと頬にも当たって、雨が降ってきたんだって分かる。
初めは気にするほどじゃないかなって思ったけれど、なんだか強くなってきた。

「何だよ、ついてないな」

雨宿り代わりにすぐ側の手水舎に入る。
土砂降りってほどじゃあないけれど、糸みたいに細い雨がサァサァと降り注いでいた。

さっきまでは黒と橙色の空だったのに、いつの間に雨雲が来ていたんだろう?

そんな不思議はあるけれど、さっき俺に手を振っていた誰かに対する不安が雨と一緒に流れていった気がした。
雨の音が、澄んだ空気と一緒に俺の中に染みこんでくるような感じがする。

そうして気分が落ち着いてくると、チョロチョロと雨以外の水音も聞こえてきた。
手水の、龍の口から出ている水。
水盤に流れ落ちていく水は、今降っている雨に似ている気がした。

「……あ、そうだ。神社に入ったならお清めしないとな」

俺は置かれていたひしゃくで水をすくうと、作法ってどうだったっけ? と少し悩んだ。
清めるのって右手からだっけ? 左手からだっけ?
悩んだ末、右手でひしゃくを持っていたからそのまま左手から洗った。

あんまり作法とか気にしない方だけど、仮にもカミサマに助けを求めて入ってきたんだから出来る限りちゃんとしておきたいと思ったんだ。

あやふやな作法でとりあえず口もすすいだ。
そうしてひしゃくを元の場所に置くと、いつのまにかサァサァと降り注いでいた雨が止んでいる。

「なんだ? 通り雨だったのかな?」

まるで清め終わるのを待っていたかのような雨に、俺は不思議に思いながら境内に足を進めた。
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